シンプルな遺言書の書き方

シンプルな遺言書の書き方

「遺言書」と聞くと、弁護士や司法書士に依頼したり、難しい法律用語を並べたりしなければならないイメージがあるかもしれません。しかし、実際にはポイントさえ押さえれば、たった数行のシンプルな内容でも法的効力を持たせることができます。
むしろ、自分で作成する場合には、複雑すぎる遺言書は解釈の違いを生み、トラブルの元になることさえあります。この記事では、専門知識がなくても今日から書ける「シンプルな遺言書の書き方」を、実際の見本付きで分かりやすく解説します。

シンプルな遺言書のすすめ

相続トラブル、いわゆる「争族」を避けるために最も重要なのは、「誰に何を渡したいか」が誰の目にも明快であることです。
シンプルな遺言書には3つの大きなメリットがあります。
細かい財産の指定などがなければ、シンプルな遺言の方がいいケースもあります。

  • 作成の心理的ハードルが低い: 思い立った時にすぐ書ける。
  • 内容が明確: 家族が読んだ時に迷いが生じない。解釈によるトラブルが少ない。
  • 書き直しが楽: 財産状況が変わっても、シンプルであれば修正の負担が少ない。

まずは「完璧」を目指すのではなく、「最低限これだけは」という内容からスタートしましょう。

自筆証書遺言をシンプルに書くための3つの必須項目

自分で紙に書く「自筆証書遺言」には、法律で定められた厳格なルールがあります。これに則っていないと、せっかく書いても無効になってしまいます。
守るべきルールは、実は以下の3点だけです。

  1. 全文を自筆で書く(パソコン不可)  本文、氏名、日付をすべて自分の手で書く必要があります。※財産目録のみパソコン作成や通帳のコピーが認められるようになりましたが、基本は手書きと覚えましょう。
  2. 日付を正確に記載する  「2025年12月吉日」という曖昧な書き方はNGです。「2025年12月25日」と特定できるように書いてください。
  3. 署名と押印  戸籍通りの氏名を書き、印鑑を押します。実印が望ましいですが、認め印でも法律上は有効です。

シンプルな遺言書の文面見本

もっともシンプルな自筆証書遺言は以下のサンプルを参考にしてください。

遺言書
遺言者は、その有する一切の財産を、妻の〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
遺言者は、本遺言の執行者に、長男の〇〇(昭和〇年〇月〇日生)を指定する。
2025年12月25日 愛知県名古屋市〇〇区〇〇1-2-3 遺言者 氏名 (印)

  • 「一切の財産を○○に相続させる」:これが最もシンプルで強力な表現です。個別の銀行口座などを並べる必要がなくなります。妻や特定の子など、渡したい人が明確に決まっている場合に有効な書き方です。
  • 遺言執行者の指定:銀行手続きなどをスムーズにするため、信頼できる家族を一人指定しておくと、後の手続きが劇的に楽になります。他の相続人は、遺言執行者に従う必要があります。

絶対にやってはいけない!遺言書を無効になる3つの共通点

せっかくの思いを無駄にしないために、以下のミスには注意してください。

  • ビデオメッセージや音声での遺言: 感動的ではありますが、日本の法律では相続としての法的効力はありません。必ず「紙」に残しましょう。
  • 夫婦連名での作成: 仲が良くても、一つの紙に二人で書くことは法律で禁止されています(共同遺言の禁止)。必ず一人一枚ずつ作成してください。
  • 修正液や二重線のみの修正: 書き損じた場合、修正液を使うと無効になるリスクがありますまた、修正のやり方もルールがありますので、二重線だけでもNGです。間違えたら、新しい紙に最初から書き直すのが最も安全でシンプルです。

遺言を書き終わった後にすべきこと

書いた遺言書をタンスの奥深くに隠してしまい、誰にも見つけられないまま…というのはよくある悲劇です。せっかく想いを残しても誰にも発見されなければ全く意味がありません。

  • 家族に遺言書の保管場所を伝えておく: 信頼できる相続人に「ここに遺言書がある」と伝えておきましょう。
  • 自筆証書遺言書保管制度の利用: 法務局で遺言書を預かってくれるサービスがあります。これを利用すれば、紛失や改ざんの心配がなく、死後の検認手続きも不要になります。

まとめ

「遺言書を書く」ことは、自分の人生の締めくくりを整えるだけでなく、残される家族への最後のプレゼントです。
難しく考える必要はありません。まずは白い紙とペンを用意し、以下の項目を意識して実際に書いてみてください。

  • 日付
  • 誰に何を(例:全財産を妻に)
  • 署名・押印

これだけを書いてみてください。この一枚があるだけで、ご家族が直面する相続トラブルを未然に防ぐことができる可能性もあります。

もっと詳しく知りたい、自分で書いてみたけど内容が不安、あるいは複雑な事情があるという場合は、一度専門家に相談してみるのも一つの手です。まずは「シンプルな一通」から始めてみませんか?

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